スタートアップサポート総合会計事務所
藁谷 翼 税理士事務所

個人事業主が税務調査で気をつけたいこと

 2025.11.20 更新

税務調査と聞くと「何を見られるんだろう」「どこを突っ込まれるんだろう」と不安になりますよね。
特に個人事業主の方にとっては、日常の支出と事業の支出の境目があいまいになりやすく、思わぬところで指摘を受けることもあります。
そこでこの記事では、税務調査でよく狙われる危険ポイント、事前にやっておくべき準備、当日の対応のコツ、そして最後に工夫(裏技)まで、順を追って分かりやすく解説していきます。

税務調査ってどんなもの?

「税務調査」と聞くと、なんだか怖いイメージがありますよね。
でも実際は、ほとんどのケースが「任意調査」といって、事前に通知が来て日程を調整して行われます。
脱税の疑いが強い場合に行われる「強制調査」とは違うので、まずは落ち着いて対応することが大事です。
税務署には「質問検査権」という権限があり、納税者には協力する義務があります。ただし、これは「何でも言うことを聞かなきゃいけない」という意味ではありません。
例えば、原本を持ち出す代わりにコピーを渡すとか、日程を調整するといったことは法律的に認められています。
要は「調査官の質問にきちんと答える」「必要な資料を提示する」ことが基本。逆に、無理に拒否したり隠したりすると余計に疑われるので、正しく準備して堂々と対応するのが一番です。
ここで知っておきたいのが、法人と個人事業主に対する税務調査の違いです。
法人の場合は、会社組織としての会計処理や内部統制がチェックされるため、調査の範囲が広く、数日間にわたることも珍しくありません。決算書や取締役会の議事録、役員報酬の妥当性など、組織的な観点から確認されます。
一方、個人事業主の場合は、事業と生活の境目があいまいになりやすいため、家事関連費の按分や売上の計上漏れ、交際費の扱いなど「日常の支出と事業の関係」を重点的に見られる傾向があります。
つまり、法人は「組織的な会計の正しさ」、個人事業主は「生活と事業の線引き」が調査の焦点になりやすいのです。

※表が見切れている場合は右にスクロールしてください。


項目 法人 個人事業主
調査対象 決算書、会計処理、内部統制、役員報酬、取締役会議事録など 売上計上、経費の妥当性、家事関連費の按分、交際費の扱いなど
調査期間 数日間に及ぶことが多い 半日〜1日程度で終わることも多い
論点の特徴 組織的な会計の正しさ、内部統制の有無 生活と事業の線引き、日常的な支出の妥当性
書類の種類 決算書類、契約書、議事録、社内規程など 帳簿、領収書、請求書、家事按分の根拠資料など
調査官の視点 会社としての仕組みが正しく機能しているか 事業と生活をきちんと分けているか

ちなみにここ数年の傾向として、税務調査に入りやすい業種は下記の通りです。
1位 経営コンサルタント
2位 ホステス・ホスト(ナイトビジネス)
3位 YouTube・ライブ配信者など
4位 金属くず卸売業
5位 ブリーダー(ペット関連)

自身の職種の傾向をあらかじめ掴んでおくことで、対策もしやすくなります。

調査でよくチェックされる「危険ポイント」

税務調査で狙われやすいのは、だいたい次のようなところです。

売上の計上漏れ
現金やQR決済、銀行入金の記録が帳簿と合っていないと「売上除外じゃない?」と疑われます。
経費の私的利用
通信費や車のガソリン代、家賃などを全部経費にしていると「これは事業じゃなくて生活費では?」と突っ込まれます。
交際費・会議費の線引き
飲食代を「会議費」として処理していると、業務目的がはっきりしない場合に否認されやすいです。
外注費と給与の区別
業務委託なのか、実質的には従業員なのか。ここを間違えると源泉徴収漏れを指摘されます。
在庫の棚卸
期末の在庫管理が曖昧だと、利益の計算が狂ってしまいます。
消費税の処理
インボイス対応や課税・非課税の区分間違いもよく見られるポイントです。

つまり「売上・経費・源泉・消費税・在庫」このあたりが要注意。
ここをきちんと整理しておけば、調査官も納得しやすいんです。

調査前にやっておくべき準備

「調査が来てから慌てる」のではなく、普段から準備しておくことが大切です。

帳簿と証憑のひも付け
仕訳ごとに領収書や請求書を紐づけておく。フォルダ整理も「年度→月→科目」で検索しやすく。
家事按分のルール化
自宅兼事務所なら、面積や使用時間で割合を決めて毎年同じ基準で処理。
売上管理の一本化
現金・カード・QR決済を全部まとめて台帳に記録。銀行入金と照合して「漏れなし」を証明できるように。
外注契約の整備
業務委託契約書を作っておくと「給与じゃない」と説明しやすい。
棚卸の見える化
期末に在庫表を作り、写真も残しておくと説得力が増します。

要は「聞かれたらすぐ出せる状態」にしておくこと。
これだけで調査のストレスはぐっと減ります。

調査当日の対応と法律的に問題ない工夫

当日は「論点を絞って、証拠で説明する」ことが大事です。

調査範囲を確認する
最初に「どの年度・どの論点を調べるのか」を確認してメモに残す。
原本は持ち出させない
コピーやデータで対応すればOK。原本は事業者が保管するのが基本です。
説明は図や表で見せる
売上の流れや按分の計算は、紙や画面で見せると一発で理解してもらえます。
修正申告は慎重に
勧められてもすぐに応じず、根拠を確認して納得できる範囲で対応しましょう。
税理士の同席
事実関係は自分が答え、法律的な評価は税理士に任せるとスムーズです。

これらは「裏技」というより、法律的に認められている正しい工夫です。調査官も仕事がしやすくなるので、結果的に調査時間も短くなります。
なお、判断が曖昧な場合はその場ですぐに返答せず、「後程税理士に確認して返答します」等のように伝えることで誤解を招く言動を防ぐことが可能です。

普段からの運用が一番の防御

調査は「過去の数字」を見るものですが、評価されるのは「今の運用がちゃんと続いているか」です。

  • ・記帳や証憑保存のルールを文書化しておく
  • ・毎月のチェック項目を決めて、漏れがないか確認する
  • ・家族や税理士など「第三者の目」を入れてダブルチェックする
  • ・年末に「税務リスクチェックリスト」を作って自己点検する

こうした運用を続けていれば、調査官も「この人はちゃんとやっている」と判断してくれます。

まとめ

税務調査は「怖いイベント」ではなく「日頃の整理を見直すチャンス」です。
危険ポイントは売上・経費・源泉・消費税・在庫に集中していますが、事前準備と当日の対応をきちんとすれば、調査はスムーズに終わります。
そして一番大事なのは「普段からの運用」。帳簿や証憑を整理し、ルールを決めて継続することが、調査に強い個人事業主になる秘訣です。
スタートアップサポート総合会計事務所では、税務調査の立ち合いも行っておりますので、ご不安な点がございましたらお気軽にご相談ください。